2022年12月から子どものコロナウイルスワクチン接種を開始しました。
約1年前は「ワクチンを接種するだけの十分な理由がない」と判断しましたが、その後、子どものコロナウイルスの感染やワクチンについて知見が集まったためです。
下記3つの理由から、子どももワクチンを接種した方が良いと判断しました。
①コロナウイルスに感染して、稀に重症化したり、死亡するお子さんがいること
②子どもでもワクチンの有効性が確かめられたこと
③ワクチンの副反応は極めて稀であること
子どものコロナウイルス感染について
総務省と厚労省の報告によると、10歳未満の小児人口924万人のうち、2020年9月から2023年1月末までのコロナウイルス感染者数389万人、ICU入院者216人、死亡者38人となっています。(ICU:集中治療室)
同時期のイタリアでの感染状況も論文になっているので併記して表にします。
日本(10歳未満) | イタリア(5〜11歳) | |
---|---|---|
人口 | 924万人 | 296万人 |
2回接種率 | 19.1% | 35.8% |
感染者数 | 3,896,454 (42.1%) |
766,756 (25.9%) |
入院者数 | 不明 | 644 (0.0083%) |
ICU入院者数 | 216 (0.0055%) |
15 (0.0019%) |
死亡者数 | 38 (0.00097%) |
2 (0.00026%) |
(日本:総務省HPおよび厚労省HP)(2020.9.2〜2023.1.31)
(イタリア:Lancet 2022;400:97-103)(2020.2.20〜2022.4.13)
表からは、子どもでは人口の半分近くがコロナウイルスに感染したことがあるほど身近な病気であるが、重症化は感染10万人あたり5.5人、死亡率は感染10万人あたり0.97人で、とても稀であることがわかります。
ただし、イタリアの感染状況からは、おそらく痙攣や意識障害、肺炎などの症状で一般病棟に入院し、幸い重症化せずに回復された方がICU入院者の何十倍もいることに注意が必要です。
また、イタリアで重症化率や死亡率が低くなっているのは、日本よりもコロナウイルスワクチンの接種率が高いために重症化を予防できている可能性があります。
実際、イタリアでICU入院した15名と死亡した2名は全員、ワクチン未接種の小児でした。
子どものコロナウイルスワクチンの有効性
2022年後半から小児のワクチン有効性に関する論文が報告され始めました。
「New England Journal of Medicine」や「Lancet」という最も権威のある医学雑誌で、質の高い研究が複数発表されましたので以下にまとめます。
研究対象 | 発症予防効果 | 入院予防効果 | |
---|---|---|---|
5歳〜11歳 | シンガポール 255,936人 |
1ヶ月後 37.6% 2ヶ月後 25.6% |
1ヶ月後 84.5% 2ヶ月後 80.4% |
イスラエル 189,456人 |
48% | ||
カタール 35,806人 |
1ヶ月後 49.6% 2ヶ月後 23.0% 3ヶ月後 11.0% |
||
イタリア 2,965,918人 |
2週間後 38.7% 3ヶ月後 21.2% |
(期間なし)41.1% | |
6ヶ月〜5歳 | 米国 5,476人 |
6ヶ月〜1歳 50.6% 2〜5歳 36.8% |
(N Engl J Med 2022;387:525-32)(N Engl J Med 2022;387:227-36)(N Engl J Med 2022;387:1865-76)
(Lancet 2022;400:97-103)(N Engl J Med 2022;387:1673-87)
表の要点は以下の通りです。
・コロナウイルスワクチンの発症予防効果は接種1ヶ月後で約40%
・発症予防効果は接種2週間後をピークにその後は減少し、長続きしない
・入院予防効果は40〜80%と高く、数ヶ月間は持続する
*発症予防効果:感染して症状が出るのを防ぐ効果 / 入院予防効果:感染して入院するのを防ぐ効果
コロナウイルスワクチンは「感染を防ぐためのワクチン」ではなく、「感染したときに重症化を防ぐためのワクチンである」と考えるべきでしょう。
子どものコロナウイルスワクチンの副反応
5〜11歳小児のコロナワクチン副反応
副反応 | 発生件数(100万回接種あたり) | 統計学的有意差 |
---|---|---|
心筋炎 | 2.4件 | なし |
けいれん | 7.6件 | なし |
アナフィラキシー | 0.4件 | なし |
顔面神経麻痺 | 1.0件 | なし |
脳炎・脊髄炎 | 0.1件 | なし |
末梢神経炎 | 0.1件 | なし |
それ以外 | < 1.0件 | なし |
(Pediatrics 2022;150(2)e2022057313)
米国では「v-safe」、「VAERS」、「VSD」など、ワクチンの副反応を監視・集計する体制が整えられています。
特にVSDは予防接種の安全性を厳格に評価する、世界で最も信頼されているデータベースです。
上記の表は、これらを用いて約1600万回のファイザー製ワクチンの接種について解析した論文から抜粋しました。
表に示す通り、子どものコロナウイルスワクチン接種に伴う重篤な副反応は100万回接種に数回あるかないか程度で、接種をしない人が自然に心筋炎やけいれんを発症するのと特に差がない結果でした。
子どもでは大人よりも重篤な副反応の発生率は低く、接種を控えるべき理由はないため、米国CDC(疾病予防管理センター)では子どものコロナウイルスワクチン接種を推奨しています。
院長の方針
お子さんにもコロナウイルスワクチンを接種することをお勧めします。
ここまで見ていただいたように、子どものコロナウイルスワクチンは危険性が低く、一方で40〜80%の重症化予防効果が期待できます。
注目すべきは、感染して重症化する方が10万人あたり5.5人いるのに対し、ワクチンを接種して重篤な副反応が起きた方は100万人あたり数名程度であることです。
言い換えれば、接種を受けて重篤な副反応が起きるリスクよりも、接種をしないで感染して重症化する方が何倍もリスクが高いということです。
mRNA (メッセンジャーRNA)という新しい技術を使ったワクチンであることから接種に慎重になるのも当然ですが、mRNAは体内に長く留まることはできない物質ですので、接種から数ヶ月以内の副反応さえ気をつければ、何年も先の後遺症について心配する必要はありません。
原理上は問題ないうえで、実際に接種してみたワクチンの有効性と急性期の副反応のデータが出揃ったため、接種しても問題ない、接種するべきと判断しました。
2023年5月からコロナウイルスは5類感染症になることが決まりました。
今後、インフルエンザワクチンのように任意接種になるのか、接種費用の補助が出るのかなど行政の対応は分かりません。
しかし、コロナウイルスは完全に消滅することはなく変異と流行を繰り返しながら、これからもずっと続いていく病気になるでしょう。
可能であれば、インフルエンザワクチンのように年に1回接種して免疫を保つ・呼び起こす方が良いのではないかと個人的には考えています。
最も大事なことは、この3年間、コロナウイルスの蔓延により失われた日常を子どもたちに取り戻してあげることです。
新たな変異株が流行した際はウイルスの感染力や重症度を冷静に判断しましょう。
不安に煽られて、なんとなくの空気に流されて再び子どもたちに負担を押し付けることは決してあってはならないと思います。
子どもたちの身体と健やかな生活を守る手段の一つとしてコロナウイルスワクチンが有効に使われることを願っています。
院長 高橋亨岳
2023年2月5日