インフルエンザ脳症

インフルエンザ脳症について

【急性脳症とは】

 一般に、「発熱性の感染症に続発し、急性発症して意識障害を主徴とする症候群」を急性脳症と呼びます。症状の中心は意識障害で、刺激への反応が異常、または全く反応しない状態(昏迷・昏睡状態)が24時間以上続きます。持続性または反復性のけいれん発作を伴うことが多く、反射・呼吸・循環などの異常を伴うことがあります。小児科では最も注意が必要で、重症となり得る病気の1つです。

【インフルエンザによる急性脳症】

 インフルエンザにかかった幼児・学童には、けいれん、意識障害、異常行動などの神経症状がみられることがしばしばあります。多くは熱性けいれんや一時的な異常行動であり速やかに回復しますが、上述した急性脳症の症状を示す場合はインフルエンザによる急性脳症と診断します。症状の初期には通常の熱性けいれんか急性脳症か分からないことが多いため、必ず病院を受診します。インフルエンザ脳症が疑われるときは、入院して血液・髄液検査、頭部CT・MRI検査、脳波検査などを行います。けいれんが続いている場合には人工呼吸管理下に抗けいれん薬の持続投与を行います。

【疫学】

 厚労省研究班による2010年の報告では、①急性脳症の原因第1位はインフルエンザで全体の27%(年間推定300〜500人)、②インフルエンザ脳症の性別は男児58% 女児42%、③平均6.3歳、標準偏差3.4歳、中央値6歳、④予後は治癒76%・後遺症16%・死亡7%・その他1% とされています。この報告から、インフルエンザ脳症は「1歳未満には少なく幼児から学童に多い病気であること」、「他の脳症と比べて後遺症は少ないが、死亡例は他の脳症より少し高いこと」が分かります。(グラフ:シーズンごとのインフルエンザ脳症報告数の年齢群別割合)

【症状】
 脳症の発生は急激で、80%は発熱後、数時間から1日以内に神経症状がみられます。よく見られる症状は、けいれん、意識障害、異常行動などです。
<けいれん>

全身を突っ張らせ、筋肉がこわばってガタガタ・ブルブルと震えるような症状が数分間持続します。意識が無くなり眼がおかしな方向を向き、呼吸が上手くできずに顔色や唇の色が悪くなります。口からブクブクと泡を吹くこともあります。 痙攣を起こしている間は意識が無いので、呼びかけや刺激に反応しません。けいれんは1〜2分以上持続することが一般的です。一瞬だけ体を突っ張らせたり、手足がビクッと動いた、呼びかけや刺激に反応あり視線も合うような場合は、けいれんではありません。

<意識障害>

状況の理解や人や物の認知ができない、会話が成立しない、言葉が出ない、起きられない、目を開けない、刺激への反応が鈍いなどの症状がみられます。眠ったような状態で痛み刺激にも反応しなくなった状態を昏睡状態と言います。

<異常行動>異常行動・言動の例

・両親がわからない。いない人がいるという。(人を正しく認識できない)
・自分の手を噛むなど、食べ物と食べ物でないものとを区別できない
・アニメのキャラクター・象・ライオンなどが見えるなど、幻視・幻覚的訴えをする
・意味不明な言葉を発する。ろれつがまわらない。
・おびえ、恐怖、恐怖感の訴え・表情
・急に怒り出す、泣き出す、大声で歌い出す

【インフルエンザ脳症の予防】

 確実にインフルエンザ脳症を予防できる方法は確立されていません。複数の研究や報告によれば、タミフルやイナビルなど抗ウイルス薬の投与でインフルエンザ脳症の発症を予防することは出来ないようです。これは、抗ウイルス薬が効果を発揮する前に、インフルエンザ脳症が短時間で急激に発症するためと考えられています。

 ワクチンにはインフルエンザ脳症やその他の重篤な合併症、死亡を予防することが期待されています。わが国では、65歳以上の健常な高齢者については、約45%の発病を阻止し、約80%の死亡を阻止する効果があったという報告があります。小児については、1歳~6歳未満の幼児では発病を阻止する効果は約20~30%で、1歳未満の乳児では対象症例数が少なく効果は明らかでなかったという報告がありますが、インフルエンザワクチンは罹患した場合の重症化防止には有効と報告されていますので可能な限り接種をお勧めします。

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