予防接種とは何でしょうか。話は何千年も前にさかのぼります。

エジプト文明の頃には既に天然痘という病気が世界中でたびたび流行し、大勢の人が亡くなっていたことが記録されています。
死亡率は約40%と推定され、ときには一つの町が全滅するほどの猛威を振るっていました。
そんな中で古代の人々は、天然痘に一度かかった人は二度はかからないことを経験的に知っていたので、天然痘の人から膿を取ってきて、まだかかっていない人の皮膚に接種しました。
この方法により確かに天然痘を予防できたのですが、逆に本物の天然痘を発症して亡くなる人もいました。
予防も命がけだったのです。
そこで、1796年にイギリスのジェンナーという医者が、牛痘というウシの軽い病気から採取した膿を接種すれば、比較的安全に天然痘を予防できることを証明しました。
これが予防接種の先駆けで、後にフランスのパスツールが発展させて現代に至ります。
つまり、予防接種とは「弱毒性の病原体をあらかじめ体内に入れて免疫反応を起こし、本物の感染症を防ぎ、軽く済ませるための医療」なのです。
だれでも知っていることかもしれませんが、これは人類史上、最も多くの命を救ってきた最大の医療革命なのです。
現代の医学では、ガンも脳梗塞も糖尿病も制圧できていません。人類がたった一つだけ、世界から根絶できた病気は先ほどの天然痘です(1980年 天然痘根絶宣言)。
ワクチンのおかげで流行が抑えられている恐ろしい感染症は他にもたくさんあります。
ふだん意識することはありませんが、現在、私たちが接種を受けることができるワクチンは、偉大な研究者たちの努力と叡智の結晶として生み出された贈り物です。
どうぞ予防接種について興味を持っていただき、時期を逃さず接種していただければと願います。

 

0歳からのワクチン

【ロタウイルスワクチン】
ロタウイルスは小腸に感染してひどい下痢を引き起こすウイルスです。下痢は白色で独特の腐敗臭がします。
感染力が非常に強く、わずか100個のロタウイルスが口から入るだけで感染します。
患者の便1gには10〜100億個のウイルスが含まれているため、計算では、わずか1万分の1mgの下痢便で感染することになります。
低月齢児ほど重症化しやすく、脱水によるショックや脳症を併発するため入院することが多い病気です。
特別な治療法は無いため、脱水に対して食塩水の点滴など対処療法を行うしかありません。
ワクチンにより、ロタウイルス胃腸炎全体の約80%、重症のロタウイルス胃腸炎の95%を予防することができます。
2020年10月から定期接種の対象となりました。

【B型肝炎ワクチン】
B型肝炎ワクチンは世界初の「がんを予防するワクチン」です。
B型肝炎ウイルスは血液や体液により感染します。
特に乳幼児では一度感染するとウイルスが根絶できず、大人になった後に肝硬変や肝臓がんを発症することがあります。
日本では100万人以上の持続感染者がいると推計されており、その多くは乳幼児期の感染が原因と言われています。
また、思春期以降では性感染症としての拡大が問題となっています。ワクチンで予防できることを知らずに感染してしまった人や、自分が感染していることに気付いていない人も多く存在します。
B型肝炎ワクチンは3回の接種を完了すると一生免疫が持続するため、全ての人がワクチンを接種することが望まれます。
2016年10月から定期接種の対象となりましたので、定期接種が始まっておらず接種を受けていない方は、今からでも接種しましょう。

【ヒブワクチン】
ヒブ(Hib)ワクチンは、ヒブという名前の細菌に対する予防接種です。
ヒブは全身に感染しますが、いちばん大きな問題になるのは髄膜炎です。
脳の周りを包む髄膜という膜にヒブが感染して激しい炎症を起こし、治療が十分に行われても約10〜20%が死亡や脳の障害を遺すため、とても怖い病気です。
ヒブによる髄膜炎は5歳までの乳幼児に多く、2000年代では年間400人前後の髄膜炎患者が発生していました。
しかし、2011年に公費助成、2013年に定期接種が開始されると患者数が激減し、2014年からはヒブによる重症感染症は1例も報告されていません。
近年、国内でこれほどの予防成果を達成したワクチンは他にありません。必ずヒブワクチンの接種を受けましょう。

【肺炎球菌ワクチン】
肺炎球菌はその名の通り肺炎を起こす細菌ですが、細菌性髄膜炎や敗血症、骨髄炎など、全身に感染して激しい症状を引き起こし、しかも抗生剤が効きにくいことがあるなど厄介な細菌です。
肺炎球菌の型は90種類以上ありますが、現在接種している小児用ワクチンはこのうち13種類をカバーしています。
かつては国内で年間1500人の重症患者、200人以上の髄膜炎患者が報告されていましたが、2013年から定期接種となり患者数は半分以下に減少しました。肺炎球菌の全ての型をカバーすることはできないため、ヒブワクチンのように病気を根絶するまでには至りませんが、子供たちにとって大切なワクチンです。
接種部が赤く腫れたり、一時的な発熱が見られることがあります。

【四種混合ワクチン】
ジフテリア・百日咳・破傷風・ポリオに対する予防接種です。
ジフテリアは喉に感染して呼吸ができなくなる病気、破傷風は全身の筋肉がこわばり痙攣する病気、ポリオ(小児まひ)は手足が麻痺して一生障害が残ることがある病気です。
いずれも大流行して多くの人が亡くなる病気でしたが、今ではワクチン接種により子供では全く見られなくなりました。
一方、百日咳はひどい咳が長引く病気で、現在でも年間1万人程度の患者が発生しています。
特に生後3ヶ月未満の赤ちゃんでは息が止まったり脳障害を起こすため危険です。
四種混合ワクチンは2012年に三種混合と置き換わる形で定期接種になりました。
ほぼ100%で免疫ができますが、数年経つと効果が落ちるため、就学前に追加接種をすることが望まれます。

【BCG】
BCGは結核菌を予防するためのワクチンです。
結核菌は空気中を漂って空気感染するため、18世紀以降、都市化がすすみ人々が密集して暮らし始めると世界中で爆発的に流行するようになりました。
現在では衛生水準や栄養状態が改善したため結核の流行はありませんが、局地的に集団感染することがあります。
特に乳幼児では重症化することがあり、とても危険です。
1919年、結核菌の毒性を弱めたBCGワクチンがフランスで開発され、以後、世界中で結核の予防接種に用いられています。
ワクチン液を左腕に1滴たらし、はんこ型の注射を2回押して接種します。
2週間後くらいから針の穴に一致した場所が赤くなり、ジクジクして膿が出るのは正常な反応です。
その後、かさぶたができてきれいな肌に戻ります。

 

1歳からのワクチン

【MRワクチン】
MRワクチンは麻疹と風疹の予防接種で、最も重要なワクチンの一つです。
お子さんが1歳になったら、すぐにワクチンを接種しましょう。
麻疹はあらゆる病気の中でも最強の感染力を持ち、1人の患者から12〜14人に感染するとされます。
高熱と全身の激しい発疹に加えて肺炎や脳炎を合併しやすく、1000人に1人が亡くなります。
非常にまれですが、感染から数年後に亜急性硬化性全脳炎という治療不能な病を発症することもあります。
風疹は風邪症状と淡い発疹が出現しますが数日で自然に治ります。
しかし、風疹の免疫がない妊婦が風疹に感染すると、発達遅滞や白内障、難聴、心臓病をもつ赤ちゃん(先天性風疹症候群)が生まれる可能性があるので、全ての女性が妊娠前に免疫をつけておく必要があります。
2012〜2013年に成人男性を中心として風疹が流行したため、妊婦に感染して45人の赤ちゃんが先天性風疹症候群と診断されました。
地域の流行を防ぐために、ワクチンを受けたことがない男性(30〜50代)も接種するべきです。

【水痘ワクチン】
水痘(みずぼうそう)にかかると全身に発疹が出現し水疱(水ぶくれ)となり、潰れてかさぶたになります。
空気感染するため非常に強い感染力を持ちます。家族内で水痘の発症者が出た場合、免疫がない人の感染を防ぐことはほとんどできません。
子供の頃に水痘に感染した人が、大人になって帯状疱疹を発症する不思議な特徴があります。
水痘ワクチンは1974年に世界に先駆けて日本で開発されたもので、岡株と呼ばれ世界中で用いられています。
これは岡さんという患者さんから分離したウイルスを弱毒化して用いていることに由来します。
高い安全性を確保しながら95%の接種者が免疫を獲得し、20年後まで効果が持続する非常に優れたワクチンです。
2014年から定期接種となりました。

【おたふくかぜワクチン】
おたふくかぜは発熱と耳下腺の腫れ・痛みが起きる病気です。
国内では毎年数十万〜100万人が感染し、約5000人が入院すると報告されています。
1〜3%で髄膜炎を合併することがあり、高熱や激しい頭痛、嘔吐が起きるため入院が必要です。
最も問題になる合併症は難聴です。おたふくかぜ患者の0.1%に高度な難聴が発生し、損なわれた聴力は一生回復せず後遺症となります。
日本耳鼻咽喉科学会によると2年間に国内で348人の難聴患者が報告されています。おたふくかぜは治療薬がなく、難聴になっても治すことができません。
1歳と就学前に、ワクチンを2回接種することが勧められています。

 

それ以降のワクチン

【日本脳炎ワクチン 3歳】
日本脳炎ウイルスは人から人へは感染しません。
感染したブタを吸血してウイルスを保有した蚊が人を刺して感染します。
日本脳炎を発症すると高熱、頭痛、嘔吐の後に急激に意識が低下し、けいれんや昏睡状態に陥ります。
致命率は20〜40%、生存しても50%以上に神経の後遺症が残る非常に危険な病気です。
1960年頃まで年間数百人が亡くなる病気でしたが、衛生環境の整備やワクチンの接種により、近年では患者報告数は年間10人前後に抑えられています。
ワクチンは標準的には3歳から接種を開始しますが、患者さんが多く報告される地域や海外に渡航する方は生後6ヶ月から接種することをお勧めします。

【MRワクチン 5歳】
MRワクチンは麻疹と風疹の予防接種で、最も重要なワクチンの一つです。
1歳と就学前に、必ずワクチンを接種しましょう。
麻疹はあらゆる病気の中でも最強の感染力を持ち、1人の患者から12〜14人に感染するとされます。
高熱と全身の激しい発疹に加えて肺炎や脳炎を合併しやすく、1000人に1人が亡くなります。
非常にまれですが、感染から数年後に亜急性硬化性全脳炎という治療不能な病を発症することもあります。
風疹は風邪症状と淡い発疹が出現しますが数日で自然に治ります。
しかし、風疹の免疫がない妊婦が風疹に感染すると、発達遅滞や白内障、難聴、心臓病をもつ赤ちゃん(先天性風疹症候群)が生まれる可能性があるので、全ての女性が妊娠前に免疫をつけておく必要があります。
2012〜2013年に成人男性を中心として風疹が流行したため、妊婦に感染して45人の赤ちゃんが先天性風疹症候群と診断されました。
地域の流行を防ぐために、ワクチンを受けたことがない男性(30〜50代)も接種するべきです。

【おたふくかぜワクチン 5歳】
おたふくかぜは発熱と耳下腺の腫れ・痛みが起きる病気です。国内では数十万〜100万人が感染し、約5000人が入院すると報告されています。
基本的に1週間程度で自然に治る病気ですが、厄介な合併症を起こすことがあります。
髄膜炎は1〜3%に発症し、高熱や激しい頭痛、嘔吐が起きるため入院が必要です。
しかし、最も問題になる合併症は難聴です。おたふくかぜ患者の0.1%に高度な難聴が発生し、損なわれた聴力は一生回復せず後遺症となります。
日本耳鼻咽喉科学会によると2年間に国内で348人の難聴患者が報告されています。おたふくかぜは治療薬がなく、難聴になっても治すことができません。
1歳と就学前に、ワクチンを2回接種することが勧められています。

【三種混合ワクチン 5歳】
ジフテリア・百日咳・破傷風に対する予防接種です。
いずれも戦前は年間数千人の死者が出る病気でしたが、1968年から三種混合ワクチンの定期接種が開始され死者数が激減しました。
なかでも百日咳は感染力が非常に強く、現在でも国内で年間1万人程度が感染する、強い咳が続く病気です。生後3ヶ月未満の赤ちゃんでは息が止まったり脳障害を起こすため危険です。
赤ちゃんの頃に四種混合ワクチンを接種し予防していますが、数年で免疫力が低下して小学校入学後の百日咳患者が増えるため、就学前5歳頃に三種混合ワクチンの追加接種をお勧めします。
三種混合ワクチンは他のワクチンと比べて赤みや腫れの出やすいワクチンですが、自然に治るので湿布を貼る程度の処置で十分です。

【二種混合ワクチン 11歳】
ジフテリアと破傷風に対するワクチンです。
破傷風菌は土壌に潜んでいるため、怪我の傷口から侵入して感染を起こすことがあります。全
身の筋肉が硬くなり弓のように反り返る病気で、発症すると死亡率は30%と言われます。
三種混合を接種して数年後、低下してきた免疫を再び高めるために接種が必要ですが、二種混合ワクチンの接種率が70%前後と低いことが問題です。

【子宮頸がんワクチン 12歳】
日本では毎年9000人以上の女性が子宮頸がんにかかり、約2500人が死亡しています。
40歳代までの発症が最も多く、まだ子どもが小さい時にお母さんが亡くなることもある、怖いがんです。
子宮頸がんの発症にはヒトパピローマウイルスが大きく関係しているため、ワクチン接種によりウイルスの感染を抑えれば、がんの発生を抑えることができます。
定期接種を行う国では前がん病変の発生率が50%減少し、フィンランドでは浸潤がんの発生が0.001%未満になりました。
日本では接種後の痛みや運動障害などの副作用が疑われましたが、調査の結果、ワクチンとは関係がないことが証明されました。
これらの結果から、「日本小児科学会」「日本産婦人科学会」「日本感染症学会」では、子宮頸がんワクチンの接種を推奨しています。

 

 

 

【インフルエンザワクチン】
インフルエンザの流行は12月から始まり、1月末にかけてピークとなります。
高熱が続き、頭痛や倦怠感、咳、鼻水が出るのは皆さんご存知の通りです。
インフルエンザウイルスは毎年少しずつ遺伝子が変化し、また数年ごとに別系統のウイルスに切り替わって大流行するため、あらかじめ流行株を予測して春〜秋の間にワクチンを製造し、毎年ワクチン接種を受ける必要があります。
ワクチンの免疫効果は接種2週間後から現れ、5ヶ月程度続きます。そのため、10月〜11月からワクチン接種を始めるのが望ましいです。
ワクチンの有効率は年により差がありますが、最近の国内の報告ではA型の約60%、B型の約40%を予防でき、入院をA型で約50%、B型で約30%減らすとされています。
すべての人に接種を推奨しますが、特に5歳以下のこどもや、喘息など慢性疾患を有する方は必ず接種を受けてください。